その時、白が無造作に絡ませていた指を解いて、前を指差した。
小さな家があった。ぽつんと、雪を被った小さな小屋である。
黒は好奇心を沸き立たせ、白を見た。
「ねぇねぇ、行ってみようよ!」
言うなり黒は、雪の上を駆けて行った。あたりが全て真っ白なので距離感覚が少し狂っていたが、黒が小屋に辿り着いたのがすぐだったので、近いのだと分かった。
白が小屋に着いて、黒は扉を2回、ノックした。
反応はない。
またノックしてみるのだが、ただこんこんという音がして、それからは何もなかった。
「お留守かなぁ?」
んー、と悩んでいる黒を尻目に、白は勝手に扉を開けてしまった。
白が中に入っていくのに、黒は慌てて着いていく。
小屋の中は、テーブルが一つぽつんとあるだけで、あとには何もなかった。
よく見れば、入口以外に窓もない。煙突もないし、ベッドもなかった。
ただ、なぜか二人分、ティーカップがテーブルにあり、中の紅茶が湯気を立てていた。
「あら、いい香りね」
白は紅茶の香りにつられて、テーブルの前に立った。ティーカップを手に取り、顔に近づけた。
黒も気になってティーカップを手に取る。紅茶の水面に、顔が映る。
しかし、本当に誰も居ないのだろうか。なぜちょうど二人分、しかも淹れたての紅茶があったのか。
そんなことを気にする様子もなく、白は紅茶を少し、口に含んだ。
「うん、美味しい」
黒も真似て飲んでみたが、ミルクが入っていないせいか、はたまた熱いせいか、すぐにティーカップを離した。
ティーカップを片手に、白は何かを考えている。
「何か足りないわね?」
そういうと、ティーカップを置いて、おもむろに黒の後ろに立った。
黒は何の疑いもなく、ただただ不思議そうにしている。
「白ちゃん?」
黒が掛けた言葉を「無視」し、白は後ろから、黒の足に手を伸ばした。
そこにあるのかどうかも不安になるほどに滑らかで、白い足。
白の手が妖しく、黒のそこへ行こうとする。
「白ちゃんっ…」
爪を立てて、腿の内側を傷つけてみる。黒が痛みに足を曲げ、体をテーブルに預ける形になった。
白は、止めない。
「いたっ…」
後ろからでも、声だけで黒が泣きそうなのは分かった。それでも、白は止めようとしない。
それどころか白の手は、いつの間にか黒の「聖域」に触れてしまった。
が次の瞬間、あっさりと手は離された。
白は何食わぬ顔で戻り、また紅茶を一口飲む。
テーブルからゆっくりと起き上がり、黒は恥ずかしそうに俯いた。
ちらちらと白の方を見るのだが、しかし白は全く気に留めずに紅茶を楽しんでいる。
「あの…白ちゃん」
「あぁ、紅茶に何か足りないと思って、もしかしたら鮮血かと思ったの」
白は淡々と言い、ティーカップを置いた。紅茶はなくなっている。
冷たかった白の眼が突然悪戯に笑い、その眼の持ち主は黒に向いた。
「それともなにかしら。続きがしたい?」
「…意地悪」
かああ、と擬音が聞こえるほどに赤くなる黒。それを見て、白は打って変わって優しく、微笑んだ。
「紅茶に変なものでも入ってたのかもね」
「…もうっ」
白はからかうつもりで、しかもそれを相手に確信させて言うのだから、たちが悪い。
いつも黒の方が負けてしまう。
少しふてくされた様な黒を尻目に、白は扉を開けた。
また、真っ白な世界が広がっていた。





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