真っ白な世界で。真っ白に舞う雪の中で。
君の破片を見失ったんだ。







「ねぇ白ちゃん、雪だね」
真っ白な世界。その中に、一つだけ黒があった。
少女は全身を黒で覆い、透き通りそうな白い肌、そして映える、赤い瞳。
黒い少女はその細い腕で、降り注ぐ雪の一粒を掴んで見せた。
手を開いても、そこに雪の粒はない。
「あれ、消えちゃった」
「ふふ、溶けたのよ。黒ちゃんが温かいから」
そういって微笑んだ少女は、黒と同じようにして雪の粒を掴んで見せた。そして手を開くと、雪の粒はまだ溶けずに、真っ白な手のひらの上にあった。
白い少女は、また微笑んだ。真黒な瞳が、瞼の裏に隠れる。
そうなってしまえば、白い少女はもはや、この世界での存在を消してしまいそうだった。
「ね?私は冷たいから、消えないでしょう?」
しかし、雪はすぐには溶けなかっただけで、いつの間にか溶けて無くなっていた。
黒は、白のそれとは正反対に、無邪気に笑った。
「白ちゃんも、あたたかいんだね」
「あら、私は冷たいわよ」
「そんなことないもん」
そういって、黒は白に飛びかかった。といっても、じゃれて抱きしめた、というのが適切である。
白の頬が真白から少し桜色になった。
黒は、無邪気な笑顔を消さない。
「ほら、あったかいよ」
「困った子ね」
返して、白は黒を離した。あくまで丁寧に、優しくである。
白は、黒を傷つける訳にはいかなかったのである。だから、黒が離されたことを悲しまないように、白は優しく微笑んで、今度は自分から、黒の小さな唇にそっと口づけをしてみた。
白は白で桜色のままなのだが、黒は慌てて顔を真っ赤に染めてしまった。
黒の頬を、両手で優しく包み込んだ。確かにそこからは熱は感じられず、ただただ凍ってしまいそうなほどの淡白な、無表情な温度があるだけだった。
しかし、黒にそんなことを感じている余裕などない。
やっと白が唇を離した頃には、黒はもっと赤く、温かくなっていた。
「これでおあいこ」
白が微笑むと、黒は照れ笑った。
白は向こうの方を向いていた。この真白の雪景色の中、何が見える訳でもなく、目を逸らす訳でもない。
黒もそれにつられ、遠くを仰いだ。何もなく、白と黒が立っていて、真っ白な雪景色が続くだけである。
「ねぇ、あっち行ってみる?」
黒が指さす。それは、白が見ている方角だった。
「そうね。どうせすることもないし」
そういって二人は歩き出した。



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