―いつも騙しているのはウサギで、いつも信じているのはうさぎで、いつも愛しているのは兎で。









「どうしよう…血が止まらないの…」
電話を切った後、俺は脚が折れるかと思う位のスピードで公園へと駆けだした。












肺が苦しいとわめいている。脚も痛いと泣いている。
それでも少年は一度も止まらず、家から数百メートル離れた公園に全速で辿り着いた。
夜中の二時である。この公園には電灯が一つしかなく、それも不調で、明かりとしては頼りにならない。闇の中で周りがよく見えなかったが、少年は肩を上下に揺らしながら、あちらこちらへと首を振った。
先の電話ではここに居ると言っていた。そしてもう一つ、先の電話で彼女が言ったことが本当ならば、下手をすると彼女の命に関わる。それだけは避けたい。
脚が痛むのを無視し、少年は無駄に広い公園を走り回った。しかし何処にも見当たらない。
「嘘…か…?」
途切れ途切れの息で呟く。そうだとしたら、一体自分は何のために本気で走ってきたのだろうか。
もし本当に彼女がここに居ないとなると悔しいので、少年はまた強引に辺りを見回した。目も段々と暗闇に慣れてきた。目を細め、視界に集中する。
と、突然に視界が明るくなった。その光は電灯のものでもなく、懐中電灯やイルミネイションのような人工的なものでもなかった。紅く小さく、それでも確かに明るい光だ。
少年はその光を見て、胸を撫で下ろしながらも溜息をついた。とりあえず、自分のこの息苦しさは無意味では無かったらしい。それにこんな無駄なシチュエーションを作られるぐらいだから、どうせ手首を切って血が止まらないなんて言っていたのも嘘だろう。
その証拠に、少年が振り向いた先には痩せた少女が一人、火の灯った蝋燭を持って立っていた。





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