白が在った。
夕日の赤と影の黒。その中で、たった一つの白。
白はぐったりと倒れ、動く気配はなかった。
「白ちゃん!!」
黒にはもう煉瓦など見えなかった。ただ白を見つけ、白の元へと駆け寄る。
倒れている白の傍にひざまずき、白を抱え起こした。
「白ちゃん? 白ちゃんっ」
白の体を揺さぶる。しかし、何の反応もない。
「白ちゃんっ!!」
黒は白の顔を見やった。見れば、左目が抉り取られ、そこから血が大量に溢れ出ていた。身に纏った真白なワンピースは、元の色を失っていた。
揺さぶる。黒は何度も何度も白の体を揺さぶり、声を掛けた。しかし白は全く動かず、ぐったりと黒の腕の中に倒れたままだった。
黒はぎゅっと白の体を抱きしめ、ゆっくりと横たわらせた。
死んでいる。そう確信して。
「…白ちゃん」
優しく微笑みかけて、黒は白の髪を撫でた。未ださらりとして綺麗なその髪は、白がまだ生きているのではないかと思わせるのに十分だった。真白な髪の毛を少し手に取り、そっと口づけする。
……甘くて、優しい。
って、白のまねごとをしてみたけれど。恥ずかしいな。白ちゃんが知ったら、なんて言うだろう。
夢の中で、いつか本当に口付け出来ればいい。
ああ、でも。
「左目がないと、夢がちゃんと見えないね」
優しく白の左頬に触れる。左目があったであろう場所から、赤い線がいくつもに分かれて伸びていた。
血をなぞり、黒は指に付いた血を舐め取った。そうしてその指を、今度は自分の左目に当る。
「ー…っ」
まるを、指が掴んだ。
黒は震える手でそれを抉り取った。激痛と共にどこか快楽が、黒の体を突き抜ける。
びくんびくんと肉が笑う。頬が一瞬で真っ赤に染まり、手の中でもまると赤が声を上げて笑っていた。
黒は手の中の眼球を、そっと白の胸元に置いた。
これで、夢がちゃんと見えるはず。
どくどくと流れ出て止まらない赤。頬を伝い落ちて、その赤はひざまずいた脚を、煉瓦を、横たわる白を、濡らしては染め上げていく。
「しろちゃん」
そう微笑んで、黒は白に寄り添って横たわった。
触れた白の肌は、氷のように冷たかった。それでも黒は白の手をぎゅっと握って、離さなかった。
きっといい夢が見られる。だって、会えたんだもん。
大好きだよ、白ちゃん。もう、放さないから。



そんな、路地裏。




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