夕日は、あと少しですべてが煉瓦に呑み込まれるほどに沈んでいた。
黒は未だ矢印の通りに路地を進んでいた。残る矢印はあと少しだ。
「えーと、ひだり」
誰を案内する訳でもないが、進む方へ指さしながら曲がる。
もう少し。あといくつか角を曲がると、きっとそこに何かがある。もし白が居れば、最高だ。
足が痛んだため黒はゆっくり歩いていたが、興奮して駆けだした。しかし矢印を見間違わないように紙をしっかり持ち、矢印の指す方向を確認する。
空を飛ぶ鴉は笑っていた。走る黒い少女を追いかけて飛ぶ。
こうやって飛んで空から見渡せば、白なんてすぐに見つけられる。地上で足を傷つけて、息を切らして走る必要なんて何処にもない。
哀れだと、鴉は嘲笑った。翼を誇らしげに羽ばたかせ、宙を舞う。
汚い、醜いと散々笑った後、鴉は踵を返して飛んでいった。
黒は角を曲がる。
「ひだりっ!」
残る矢印は二つ。つまり、あと二回道を曲がれば、その先に何かがある。
黒は勢い良く駆けていく。進むたび、そこには血の足跡が付いていった。
足の裏の皮は剥げ、肉が露出する。血は止まらず流れ出る。それでも曲がり角の向こうを知るため、黒は歩き、走り続けた。
会いたい。白ちゃんに会いたい。この先に居るかもしれない、一秒でも早く白に会いたい。その想いが、黒の足を突き動かした。
白ちゃん、白ちゃん、白ちゃんっ!!
そうして黒は、最後の矢印が指し示す方向へ曲がった。




 次へ