下を見れば、もう一番下は殆ど見えない位の高さまで来ていた。
不思議と時間の経過や疲労を感じない。
ふと、黒の方から口を開いた。
「ねぇ、虹って何色だっけ」
「虹色」
悪戯に白がそう答えると、黒は白の方へ振り向いて、口を尖らせた。
「そうじゃなくて」
苦笑いする黒。振り向いて、また階段を上がり始める。
白は時間稼ぎに適当に言った冗談など忘れて、記憶を漁っていた。実際に虹を見たことが少ないので、何とも言えない。その前に、虹の定義についてよく解っていないのが致命的だった。
ただ、いつか読んだ本に詳しく書いてあった気がする。それが思い出せれば或いは説明できるのだろうが、残念ながらその本の内容の記憶が曖昧だった。
何だったか、と頭を悩ませている間にも、無意識に白は階段を上がっていく。黒も、白の返答を待っているのか再び黙り込んで、裸足を次の段へと進ませる。
黒と白の色は入っていなかった。それは確実だ。
細い指で前髪を梳く。
ふと、思い出した。確証はないが、多分間違いない。
「虹よね。確か、赤、橙、緑、黄、青、藍、紫の七色じゃなかったかしら」
白の言葉に、振り向かないまま黒は足を止める。
なんとなく白は虚空を見てみたが、やはり虹など架かっているはずもなかった。
「そっかー…」
つまらなさそうに呟いて、黒はまた足を進める。
「何かつまらない?」
白の問いに、黒は答えない。
数段を進んでも声は聞こえず、白は少し苛立ちを覚えた。仕方がないので、虹を脳裏に思い浮かべてみる。そんなに綺麗だとは思わなかった。
ふと黒が足を止める。少し俯いて歩いていた白は気付かず、ぶつかりそうになるのを慌てて避ける。
先の問いに、黒が答えを呟く。
「白と黒が入ってないから」




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