―かさぶたを、はいでみよう。







―。

チャイムが鳴る。
規則的に響いたその音色に心が揺れ動く。それは誰しものことだった。
ようやく退屈な授業が終了した。終わる手順として、終了の挨拶はしなければならないが。
少年は起立の号令がかかるまでの間も考えていた。
そもそもなんであいつ―教師に頭を下げる必要があるのか。俺達があいつがいいと選んだ訳ではない。それに俺は、高校を通らなければ仕事に就いて生きていくのが極めて困難であるこの時代だから、仕方なく高等学校というルートに来ているだけであって、別に頼んだ訳でもないし、今自分がこれをしたい訳でもない。だとすれば何故頭を下げなければならないのか。
しかし少年は同時に、「頭を下げる」という動作について、頭を下げたからそれがどうした、とも思っていた。結局うやむやになった自分の思考回路を、自嘲気味に笑う。
思考が終わる頃には少年はほぼ無意識に日直の号令に従っていた。
立ち、椅子を入れ、礼をする。
「はぁ…」
ようやく終わったか、と少年は力なく椅子に座りこんだ。首を気だるげに動かす。
腕は教科書へと伸びた。適当に重ねてある程度整え、立つと同時に片腕に持つ。
つと時計を見れば、長針は一を指そうとしている。それを見て少年は、長針に対し、お前は何を急いているんだと思った。
直後、ぷっと吹いて自嘲気味に笑う。
時計が何を急くというのか。時間は一定に回り続けるだけだ。
もう一度時計を見る。長針は少しだけ進んでいた。
机に手をついて教室の入り口を見ると、ちょうど最後のクラスメイトが出て行くところだった。
つと、腹が鳴る。
「…腹減ったなぁ」
そう呟いて、ホームルームへと足を向けた。




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