断続的な不協和音。
陳腐で劣悪なメロディ。
一つだけ綺麗な、歌声。

白はベースを弾きながら、その詩をずっと辿っていた。
黒が張り上げる、その詩を。
それはとても汚くて、幼稚で、感傷に欠ける。
だけれど、白には―とても綺麗に思えた。



 うさぎさんは  とびはねた

 ことりさんは  ちにおちる

 きみは  ぼくがつかまえる

 ぼくは  きみにおぼれてた
   



そんなに良い詩じゃない。
まず評価する価値が見当たらない、実に幼稚な詩。
それでもギターを掻き鳴らして、汗を撒き散らして、声を張り上げる黒は、とても無駄に思えた。
確かに無駄だった。それを聴いていた耳たちは、いつの間にか居なくなってしまっていた。
残ったのは真黒な少女がただ一人と、それが鳴らすギターの音だけ。
それでも白は、確かに感じていた。
何故私が、ベースを弾いていたのか。


覚えたコードは、CとDとGとEmとAmの五つだけ。
スケールとか理論とかなんて、全然解ってない。
手が小さいから、まともに弦も押さえられない。
ピックだって、適当に動かして弦を弾くだけ。
それにギターが重くて、直立するのがやっと。
メロディだって、全然いいものじゃない。
だけど。

伝えたい想いがある。
だから弾く。


 だ  い  す     き  ―― ―  。








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