黒に反応はない。
白は力を抜いて、両手を黒の首筋から離した。
つついたり撫でたりしてみたが、やはりもう二度と黒が動くことはなかった。
ただ、その手だけが白の首を掴んでいた。
白が口付けしようとしても、やはり反応は何もない。ただ、白の首を掴む手の力が、だんだんと強くなっていった。
白は息苦しさにもがいた。自分が重ねたその手が、自分を殺そうとしている。
黒の赤い眼が、白の全てを赤く染め上げた。
「だい…す…」
言葉は途切れる。
止めたのは、紛れもなく白で、黒だった。音もなく、白は黒に重なって倒れた。
二人が、だんだんと冷たくなっていく。何もかもが、向こう側へ行ってしまう。
最期、微かに漏れた白の言葉は、誰にも届かずに存在を消した。
二人は微笑みあった。また白がからかって、黒が赤面する。
黒がじゃれついて、白が微笑む。
ただそこに、真っ白な世界が広がった。
小屋には、片方だけ冷めた、二つのティーカップが並んでいる。