少女は美味しそうなスープの入ったカップを食卓に置きながら微笑んだ。
美味しそうな香りが湯気と共に少年を誘惑する。
少女は料理好きで、得意だった。そして少女は、自分が作った料理を少年に食べてもらうのも好きだった。
というか、少女が作る料理のほとんどは少年のためのものである。
それで休日の今日、少女はスープを振舞うために少年を家に招待したのだった。
ただ、彼女の料理の材料は少し変わっているのだが。
「なんてこともあったよねぇ」
先ほどまでしていた思い出話に、少女はおかしそうに笑った。
しかし少年は呆れたように肩をすくめ、どこか自嘲するように溜息をついた。
「まあもう慣れたけどな…つーか慣れざるを得ない」
「あはは」
少年は言いながら、台所を見る。
ごく普通の木のまな板があり、ごく普通のお玉や包丁があり。
少年は自嘲気味に微笑み、スープを飲む。
「ほんと、こんなもん美味いって言って食えるようになったんだからな」
良く旨みの利いたスープに、味の染み込んだ具。そして食欲をそそる香り。
その中に臭う、ほのかな血生臭さ。そして部屋中に染みついた血の臭い。
少年はまな板の上の肉塊を嘲るように見た。
「しかしお前料理うまいよなぁ」
足元の血だまりをぺたぺたと踏みつけながら少年が言うと、少女は照れ臭そうに頬を染めて、可愛らしく笑った。
「そうかな?」
「おうよ」
また少年が微笑むと、少女も答えて微笑む。
ただ、血生臭さを残して。






兎の羽は、空へ羽ばたくことはない。