「ねぇ、ここから飛び降りたら空も飛べそうじゃない?」


無邪気に、遥か下に広がる灰色の人工物を見ながら、少女は謂う。
これほど高いところに居るのだから、一歩でも踏み出せば、確かに飛べそうだ。
沢山の鉄の塊が走る。赤い光に止められて、今度はごみみたいに小さい生き物たちが歩き出した。
それが終わって、青い光を合図にまた、鉄の塊が走り出した。
とりあえず、それらが排出する黒い煙は止まりそうにない。

そんな汚い景色のもっと上、ビルの屋上に、二人は居た。
「んーまあ飛べそうだけど。私たち、翼を持っていないから落ちるだけよ?」
呆れたように謂うもう一人の少女。色素の薄いワンピースが、ふわりと笑った。
「じゃあ白ちゃん。鳥の翼を千切って私たちが飛べばいいのよ。鳥はどこかしら?」
きょろきょろと空を見る少女。しかし鳥は一羽もおらず、その代わりにも成れない人工物が大きな音を立てて飛んでいた。
そんな少女に、もう一人の少女、白はますます呆れ顔になる。
「でも黒ちゃん、鳥の翼を千切っても私たちは飛べないわよ?」
そう白が言うと、黒は「えぇっ!?」と驚いた。全く可愛い子だ。

「なんで〜?」
「さぁ?鳥の翼を千切ってもその鳥が歩くようになるだけよ。きっと神様が決めたのね」
「ふぅーん。そっかー」

納得して、黒は口笛を吹きだした。結構軽快なポップス…と思いきや転調して、急にロックな曲調になった。本人は楽しそうなので、白も微笑んだ。
と、急に走り出す黒。向かう先は、灰色の空。

おそらく最も汚い空間。

「えへっ、ジャーンプ!」
ぴょん、と跳ねた。 堕ちる、落ちる。
「あ〜ぁ…せっかちねぇ。そこが可愛いんだけど」
呆れと微笑を混ぜながら、白も灰色の空へ、ぴょんっ、と。


二人とも結構楽しそうに、ボール遊びを始める子供みたいに。




血濡れワンピの双子姉妹、死亡。