―あぁ、暑い。




「…っ」
真白な砂が黒の体を受け止め、少しばかり舞い上がる。
白は思い切り体重を乗せて黒を押し倒し、潰さんとする勢いで黒の首を絞めた。
声にならない声を上げ、楽しそうに体を震わせる黒。時折びくびくと痙攣する黒の体に、白は自分でも驚くほどに興奮していた。
自分にはそういう趣味があるのかもしれない。やはり汚い身だ。
黒の糸が、千切れそうに張った瞬間。
「はぁっ…はッ」
荒くなった息で、白は手を離した。
定まらない視線で見れば、黒が未だにびくびくと体を震わせ、咳きこんでいる。乱れた自分の髪を直しながら、白は自分の体も震えていることに気が付いた。
…死んではいない、か。
「ぅぇ…ぁあ…はぁっ」
黒が唾液を垂らしながら、それでも何とか息を整えて微笑んだ。
本当に…自分を殺そうとした人に、微笑んだりするものだろうか。一体この子は、どこまで綺麗なんだろう。
「し…ろちゃ…けほっ」
白の目に、黒の首にくっきりと残った指跡が映る。確かに私は…この子を殺そうとしていた。
それも、とても汚い理由で。
白はかがみこんで、黒に顔を近づけた。唇が触れてしまいそうなほどの距離。
そうして、黒の髪を撫でる。
「ねぇ黒ちゃん。私のこと、好き?」
霞んだ黒の瞳が、白を捉える。
そして、瞼を閉じてにっこりと微笑んだ。
「うん。だい…すき」
「そう」
答えを聞いて、白はまた黒の髪を撫でた。自分のものとは違う、温かいそれ。
どうして好きだなんて言えるんだろう。
「もう一つ訊いていいかしら」
訊くと、黒は微笑んだまま頷いた。息は大分治まってきたようだった。
「私が死んだら、どうする?」
白の顔に、また無表情な笑みが戻った。黒の首に残った指跡を舐める。
喘ぐように体を反らせて黒は、今度は困ったように微笑んだ。
「わかん…ないや」
「…そう」
一度目をつむって、白は黒を起こした。そのまま倒れこんで、さっきとは逆に白が下、黒が上になる。
白は黒の手を掴んで、自分の首元へと誘った。
白の言いたいことが分かったのか、黒は白の首に手を掛けた。だが、力が入らない。
構わず、白は黒の手を自分の首元にあてがい、言った。
「最後に一つ。私を殺しなさい」
言うと、黒は白の手を振り払った。少し驚く白。
「で、出来ないよ…」
「どうして? 私の事好きなんでしょう? だったら私のお願いきいて」
「でも…」
躊躇う黒。そんな黒を見て、白はまた黒の手を掴んだ。
そうして、微笑んでみせる。
「お願い…ね?」
笑顔が利いたのか、黒も微笑んだ。
「…白ちゃん」
そっと呟いて、黒は白の首を思い切り絞めた。
すぐに白の体がびくびくと動いて、しかし黒は微笑んだまま力を緩めない。
やがて白が止まった。
「……」
手を離すと、白の首が力なく落ちた。
さっきの白と同じようにして、白の髪を撫でる。そうして冷たい白の唇に、そっと口付けする。
「…おやすみなさい」
白の横に寝転がる黒。
空の方を向いて寝ている黒を向いて、その小さな手と手を繋ぐ。
温かな、少し暑い日差しの中で、黒は夢へと堕ちていく。






二人と貝殻を、海が飲み込んでいった。