―諦めの付いた人生と、少女は雨空に恋をした。










「どじゃーん」
…これは彼女が概念とする意味で言えば、「じゃーん」の上級版に値するらしい。
白髪の少女は、真顔で少女を見る。金髪の少女は、白髪の少女のその反応にぶーっと頬を膨らませた。自分は驚かせるつもりで言ったのに、つまらなさそうにされたのが気に入らなかったのだろう。
しかし金髪の少女は直ぐに太陽みたいに笑い、手を差し出す。
その手の上には、枯れた菫の花があった。
「…菫ね。枯れてるけど」
と、当たり障りのない返事を返しておく。
金髪の少女は怪訝な顔をしたが、直ぐに自慢げに胸を張った。ころころと表情を変える子だ。精神が不安定なのだろうか、薬とかやってないだろうか?
「綺麗でしょー」
自慢げに笑みを零しながら、金髪の少女は見せびらかすように手を近付ける。それと比例して白髪の少女は退く。
…何が言いたいのだろう。
「とてもじゃないけど、綺麗だとは思わないわ」
枯れた花ほど見ていてつまらないものも無いだろう。
女を花に譬えた人は偉大だ。
「綺麗じゃない?」
「綺麗じゃない」
再び否定され、金髪の少女は口元を尖らせた。子供っぽい。
独り善がりで意味不明な話に付き合ってる暇はあるが、暇だとしてもそんな話は聞きたくない。
金髪の少女に背を向けて、白髪の少女は青空を仰ぐ。


何処の街にもあるような平凡な河原を、二人の少女が歩いていく。
それは唐突にだった。
「病気で人が死ねば、その病気の研究が進む」
金髪の少女は小石を拾って、手の上で転がしていた。
「研究が完成しても、その病気で人は死ぬ」
助からない確率はゼロには出来ない。白髪の少女にはそう、加えて金髪の少女が呟いているのが聞こえた。
投げられた小石は幾度か水面を跳ねて、やがて沈んだ。
「どうでもいいことだけれど、病気で死んだ人と病気で死ななかった人は、果たしてどちらの方が価値のある生き物なんだろうね?」
本当に、どうでもよかった。


「…それは冗談かしら。だとしたら面白くない」
「半分本気かな?」
金髪の少女の黄金色の瞳は、とても綺麗だ。
だけど、白髪の少女の赤い瞳は、比べるととても汚い。
そんなことはどうでもいいし改めて言う必要もないのだけれど、それと同じくらいにどうでもいい。
薄い金髪を揺らして、少女は水面に映る自分の顔を見ていた。
「まさかナルシスト?」
「違う違う」
「じゃあ何見てるのよ」
「これ」
と言って金髪の少女が顔を上げた瞬間、白髪の少女は噴き出してしまった。
「なんて顔してるのよ…っ…ぷぷっ…」
「変な顔して遊んでたの」
次々と色んな顔に変わるのを見て、白髪の少女は腹を押さえて笑い出してしまった。
面白い物は、面白いんだ。
「硝子ちゃんもやる?」
「そ、そうね! おもしっ…ひっ! ろい、わね…っ」
ツボに嵌った。
よろよろと河の縁まで歩いて、しゃがみ込む。
水面に自分の変な顔を映して、白い少女はまた声を上げて笑う。
「あははははははっ!!」
「五月蠅いよう」
「だ、だってぇ…っ」
その後も白髪の少女の笑い声は絶えず、金髪の少女は呆れて肩をすくめた。


日は暮れて、帰り道。
「あー…あれなんだっけ?」
「何々?」
「ああ、思い出したわ。病気の話」
どうでもよかったヤツだ。
日は、寂しげに沈んでいく。明日も昇るんだからさっさと沈めばいいのに。
「あれ、どうでもよくなかったわ」
「ほんと?」
今さらだが、金髪の少女は嬉しそうに微笑んだ。
白髪の少女も薄く微笑む。
「今生きている貴女が、死んだ誰よりも大切よ」
悪戯に言うと、金髪の少女は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
「さぁ、帰ろうかしら」
「うん」
黄金色の短い髪が過ぎた後に、長く濃い影が伸びた。


価値の無いものばかりの世界に、少女は少し絶望しながら。