ぼーっと柵に背を預けていると、黒がふと振り向いた。
少し罪悪感がある。
何故か満面の笑みだ。
「じゃあ、そろそろいくね」
ああ、そういうことか。
「そうね」
柵から背を離し、黒の目の前に立つ。ワンピースと髪を整え、一つ微笑む。
微笑み返して黒は白に背を向ける。黒の眼前に、真白な虚空が広がった。
踏み出せば、落ちる。
「いってきます」
後ろの白を見て小さく手を振って、黒はぴょんと跳ねた。
直後に黒の姿が見えなくなる。
「…逝ってらっしゃい」
一人になった踊り場で白は、虚空を見つめた。
何もありはしない。
まあ、考えていても仕方がないのは解っている。いつもそうだ。大概は、いろいろと考えられる状況でこそ考えても意味がない。いや、その逆だ。考えても意味のない状況で、ついつい考えてしまう。
「はぁ」
一つ溜息を吐いて、白は階段を降りることを決めた。


一番下まで降りてみれば、真赤な黒が転がっていた。