―寂しくはない。寂しくはない。寂しくはない。










大きな音がした。骨が砕ける音も聞こえた。
煙突を覗きこんだ顔を上げて、雪よりも白い少女は溜息を吐いた。
「……馬鹿な子」
メリークリスマス。

白はハシゴを使って降り、煉瓦造りの家の中に入った。鍵は空いていなかったが、問題はない。
見れば美味しそうな料理がずらりと並んでいる。部屋中が飾り付けられ、イルミネーションが鮮やかで目に痛い。片隅にはクリスマスツリーがあったが、家の中に木を置いている意味が解らず白は不思議に思っていた。
クリスマスツリーは知っている。ただ、結局のところ家の中に置く意味はあまり理解出来ない。
白は手前にあった料理に手を伸ばした。鶏の肉が味付けされて焼かれたものだ。
「美味しい」
たまに子供が食べきれず肉料理を残してしまう時がある。
そんな時、その母親は何と言うか。
「高いんだからちゃんと食べなさい」
せめてこの料理が元は生きている鶏だったことを意識して欲しい。
ごめんなさい鶏さん。殺してごめんなさい。

異常な文章だと漸く理解したところで、白は本を置いた。
多分クリスマスプレゼントの山だろう。料理の置かれた大きなテーブルともう一つ、沢山のプレゼントが置かれたテーブルがあった。そこから一つ適当に取ったのが本で、読んでみたが大して面白くも無かった。
こんなものをプレゼントされても貰った側は大して嬉しくは無いんじゃないか。その筈だ。
要らない物を善意で渡されるのが一番迷惑だ。邪魔だから。
白は部屋を見まわした。元々の用事を思い出したのだ。
暖炉を見つけ、テーブルの間を縫って行く。暖炉には火が付いておらず、薪だけが組んであった。
薪ともう一つ、黒い少女の死体があった。
メリークリスマス。

「……メリークリスマス、かしらね」
何気なしに、豪華な料理達の真ん中に置かれたケーキを見る。蝋燭が幾つも聳え立って、小さな火を煌々と灯していた。
冬で寒いから余り気にする事も無いだろうが、死体は腐っていく。腐ると当然臭い。
消毒も兼ねて燃やさなければいけない。骨を取っておくつもりは勿論無い。
ただ、どうしようもなく愛しいのは変わらない事実だった。
サンタクロースの真似をして屋根から入ろうとして、足を滑らせて落ちるなんて、馬鹿としか言いようが無い。呆れるほど馬鹿だ。
それはサンタクロースになろうとした訳じゃない。サンタクロースになったつもりでいただけだ。だからこういう事になった。白は薪の上の黒い少女の死体を、再び暫く見つめていた。
燃やさなければいけない。燃やさなければ逝けない。

白は蝋燭を一つ手に取った。それを薪の中へ放り投げる。
やがて火が移り、薪は赤く燃えだした。温かい。同時に悪臭が漂った。黒の髪が燃えている。
白は薪と黒が燃える様子を、鶏の味付き死体と一緒に見ていた。
「………」
寂しくはない。
彼女も私も、結局は一人なのだから。
一人きりのクリスマスを哀しむ必要はない。


サンタクロースへの願い事。
もっと燃える薪を下さい。