「なに? これ」
黒が一つ、錆びた何かを拾い上げた。
それは円形で、何やら数字のような文字が彫ってある。
黒はそれが何なのか気になり、回したり弾いたり握ったりしてみた。しかし何をやっても手に錆が付くばかりで、結局何なのか分からなかった。
「あ、食べ物なのかな」
そう思って、少し匂いを嗅いでみる。錆び特有のあの鉄臭さがあり、黒はそれを顔から遠ざけた。
恐らく食べ物ではない。硬いし。
結局何だろうと思いつつ、手のひらに乗せてじーっと見ていると、耐えかねたのか白は口に手を当て、くすくすと笑った。
小馬鹿にしているようで優しく見守るようなその笑みに、温度はなかった。
白は黒の手のひらからそれを取ると、その指先で掲げて見せた。
「これはね、お金って言うのよ」
「お金?」
不思議そうに硬貨を見る黒。
白が続ける。
「そう。今は錆びてて汚いけど、これで物を買うのよ」
「へぇー。じゃあ、これで何か買えるかなっ」
「そのお金で足りるものならね」
そう白が言うと、黒は辺りをきょろきょろと見渡した。しかしあるのは塵と瓦礫と煙だけで、あとは空に青が沢山と、真っ黒な鳥が飛んでいるだけだった。
黒は忙しなく硬貨と景色とを見て、しばらくすると首を動かすのを止めた。
少しつまらなさそうに、白を見て言う。
「なんにもないね」
「そうねぇ」
白は答えて、眩しい空を仰いだ。太陽の光を浴びて、真っ黒な鳥が悠々と飛んでいる。
眩しくて目を閉じた。暖かな日差しがあるだけ。
白は、溶けていくような感覚を覚えた。


「あ、欲しいものあったよ」
目を開く。黒の方を見ると、さっきとは打って変わって満面の笑みだった。
手の中の硬貨を誇らしげに握りしめ、黒はぎゅっと白を抱きしめる。
「黒ちゃん…?」
黒の柔らかな髪が触れて、熱が伝わる。
肌が触れ合う。
「えへへっ。わたしね、白ちゃんが欲しい」
少し赤らむ頬。
しかし白は冷たく、悪戯に笑って見せた。
「ふふっ。私はもう貴方の物よ」
そう言って白は、その手を黒の首筋へと当てる。


一つ笑い声がして、黒は崩れ落ちた。
手の中の硬貨が音も無く転げ落ち、塵に混じる。
黒を見下ろしながら、白は薄く笑った。


「貴方はずっと私の物――」





何処かの街で、少女が人形を抱いて、朝を待っていた。