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電光掲示板が次の電車を告げる。
人混みのホーム。行き交う人。触れる身体。過ぎる映像。
まるでそう、映像を見ているかのような錯覚。塵の耳に届くアナウンス。理解する塵の脳。動く塵。
私は塵を否定した。私は塵じゃ無い。塵じゃない。塵じゃない。
余りに多くの人、詰まる息。暖房も無しに漂う熱量。奪い合いの酸素。影が過ぎては行き、行っては過ぎ。
少女は一人佇んでいた。ホームの天井を支える柱の横。
まるで蠢く蟲達の様な、人の混み。息が苦しい。”その酸素は私のものだ”。
少女は溜息も吐かずに静かに待っていた。
やがて電光掲示板が、電車が間も無く来る事を告げた。
少し大袈裟なコートのポケット。その中で、携帯電話がメールの受信を震えて報せた。
少女はメールを見て、一度だけ笑った。そして、携帯電話の電源を切った。
”その酸素は貴方に差し上げます”。

人の混み。人混み。ヒトゴミ。
塵箱と化した駅のホームで、少女は独り。
行き交う人。触れる身体。過ぎる映像。大量に吐かれる二酸化炭素。雑音。
誰も居ない。誰も居ない。何も聞こえない。何も見えない。何も感じない。何も無い。誰も居ない。誰も居ない。誰も居ない。
だれもいない。


少女は一人、小さく笑った。