―空を、七色が汚している。





皆が見上げた先に、汚い橋が架かっていた。
俺はそれを、ひどく目を細めて見ていた。目が悪いからではない。
俺はあれが大嫌いだ。
「すっげー」
「わーキレイーっ」
俺の周りに居る有機生命体が、喜々として口々に言う。
そんなに綺麗なものか。空が汚れている気がしてならない。
俺は目を逸らした。雨上がりの冷たい空気は、気を逸らすには丁度いい。
群がる群衆を避けながら一歩、また一歩と進む。早く此処から離れたい。
手が震えているのが分かった。その理由も勿論分かっている。
嫌悪だ。
「汚ねぇ…」
そう言って握りしめた手。足は砂利を踏んで、あれの見えない所へ。
俺は手を握りしめたまま振り向いた。建造物の影で、もうあれは見えない。
あの汚い橋が、視界から消えた。
なんて清々しい気分なんだろう。俺は思わず笑みを零した。
そうしてまた群衆と空から離れていくように歩いていく。
「なんであんなものがあるんだろうなぁ」
酷く汚いそれなのに、どうしてそれがあんなにも人を惹きつけるのか。それが理解出来なかった。
俺はまた目を細めながら、壊れた精神が待つ教室へと向かった。



「おー…やっぱり居たか」
教室には、一人を除いて誰も居ない。
呆れたように肩をすくめて、少年は席についた。
その横に立つ、一人の細身の少女。
「いいでしょ、別に」
少女はくまの出来た、お世辞にも綺麗とは言えない瞳で微笑んで見せた。
しかし、少年の目にその瞳は、虹よりも綺麗に映っている。
少年は溜息をついた。
「…虹のどこがいいんだろうなぁ」
問いかけるようにそう呟くと、少女は驚いたような表情を見せた。
「君、虹嫌いなの?」
「おう」
汚い瞳が少年を見つめる。
「私は虹、好きだよ」


「あんなののどこがいいんだよ」
少年は少しの落胆を込めて言った。
しかし少女はにこやかだ。
「んーとねぇ…」
そう、指を唇にあてた。


「汚い所」
少年は一瞬間抜け面になったが、直ぐに可笑しく笑った。
それを見て、少女の笑顔はますます綺麗ではなくなっていった。
「やっぱお前のそういうとこ好きだわ」
「私も君の事大好きだよ」
そう微笑んで、虹を馬鹿にしてやった。


また、虹が空を汚していく。