―雨は、嫌いだ。







……外は、雨だ。
私はもう十一月も半ばだと言うのに、靴箱の奥に仕舞われたサンダルを態と引っ張り出した。夏休みによく着ていたノースリーブの服と、膝上までの短いスカートを穿いた。サンダルを履いて、私は玄関を出た。
家の中から誰かの声が聞こえたが、どうせ下らない内容なので無視した。


公園には案の定、誰も居ない。居たら面白いけど。
雨は私が公園に辿りつくまでの数分の間に激しさを増して、冷たくて大きな粒が降る。霞む視界の先を見ながら、私はブランコを見つけた。
肌が冷たい。唇が震える。あんなに走ったのに、私の命はもうこんなに冷たくなったんだ。
私は足音すら聞こえない雨の中を朧気に歩いて、ブランコの鎖に手を伸ばした。サンダルを蹴飛ばすように乱暴に脱ぎ捨て、冷えた裸足で乗る。濡れたブランコも勿論冷たくなっていて、でも私は躊躇わずに漕ぎ出した。
キィキィと揺れるたびに音が鳴る。私は頭痛を感じた。
何も考えてはいない。何も怖くはない。
怖くはないんだ。

本能的に行動すると、私は私を殺したくなる。
でも何故かそれが許されないので、私はこうして生きている。
でも雨の日に傘も差さずに外に出るのは許されるので、私は外に出る。
傘も、差さずに。

身ぶるいだ。頭痛は治まるどころか、酷くなって吐き気まで誘発する。私は何もかも嫌になった。でもそれが頭痛の所為で苛々鬱鬱することに由来する一時的な「嫌」な訳であり、私はそれに最も腹を立てた。
――解決策が無い。
反応が無いのだ、エンターキーを押したはずなのに。
もう吐きたい。吐きだしてしまいたい。でも吐き気は喉の手前で止まって、どうしようもなく落ちていく。
私は遣り切れない感情を剥きだして、遊具を殴りつけた。
痛い。痛い。
もう一度、今度は強くもっと強く殴りつけた。
もっと痛い。
殴りながら私は、物語のそれではない事を認識する。殴りながら私は他に色々な思想を張り巡らしているのだ。痛い、とか。泣きたい、とか。あれが食べたい、とか。いつかテレビで見たお話のように真っ直ぐに一心不乱に殴っている訳ではないのだ。
この葛藤が他人に、お前らに解るものか。私は私の腿を思い切り殴りつけた。神経を刺激が突き抜けて、秒速数百メートルの神経伝達が往復する。瞬時に脳が認識した答えは、「痛い」だった。私は膝を折り曲げて雨に濡れた地面にしゃがみこんだ。雨は有情に降り続いてくれている。
痛いよ。
鈍い痛みが走る。それと同時に身体が寒さに震えて私は、寒いと思った。だから、私は今度は私の左腕を、また思い切り殴った。
痛い。痛い。
涙が出てきて、鬱陶しいくらいに鼻水も出てきた。それなのに私は、寒いだの痛いだの鼻水が鬱陶しいだのと、思っていた。だから私はまた、思い切り、今度は頭を殴った。
痛い痛い痛い。
横になって倒れる。服に雨が染み込んで、素肌が濡れた地面に触れて、体温が下がって、砂利が痛い。
私はそのまま寝てしまいたかった。
帰る場所があるのに帰るのを躊躇うのは、滑稽だと思った。

私はしばらく遊具で遊んだ後、罵倒が待つ家に向かった。