―意味はない。








二人は陽気に歩く。
右を見ても左を見ても興味を引くものばかり。
ここは何処かの商店街だろうか。衣服店に八百屋、パチンコ店から居酒屋まで、いろいろな店が二人の行く手に並んでいる。
白はそれらのことごとくに興味を示さなかったが、黒はほとんどの店で立ち止まった。こんなに物が溢れるところは久しぶりだ。黒がはしゃぐのもしょうがないだろう。白もしょうがなく止まり、あれこれと見て回る黒を微笑んで見ていた。
見ては回るが、しかし黒は一切の物に手を出さなかった。
白がそれについて訊くと、黒は「誰かのものだから」と言って微笑んだ。それを訊いて白はまた愛おしそうに微笑む。
そんな二人のショッピングはまだ続いていた。


白が適当にショーケースを見ていると、黒はまたどこかの店へと入っていった。
白も見失わないようについていき、店の中を覗いてみる。
店内は外に比べて暗く、空気が重いような気がした。
消えそうに点滅しながら光る蛍光灯、床から天井まで薄汚れたタイルの壁。
何より白が不思議に思ったのが、果てしてここが店なのかということである。店内には商品を並べるような棚もなく、値札も見当たらない。勘定場もないし、まず商品だと思われるものが置いてなかった。
ただ、今にも崩れそうなほどの量のCDケースの山が所狭しとあった。触れればすぐに倒れてしまいそうで、しかし触れなければどこも通れそうにないほど、店中に敷き詰められている。
黒はいつの間にか奥の方へ入って行ってCDの山を漁っていた。それをちらと見て、白も適当に手前の山からCDケースを一つ、手に取った。
特に目立つようなデザインもなく質素で、うさぎがぽつんと一匹映っているだけだった。
何の興味も湧かない。
白は特に何も考えずにCDケースを山へと戻した。そうしてまた別の山からCDケースを取る。
今度は魚が一匹映っていた。なんとなしに白はケースの開ける。
すると中には真っ白なCDが入っていた。しかし、またすぐにケースを閉じる。
CDケースを山に戻すと、白は山に触れないように気をつけながら奥へと進んだ。急に開けたそこで、黒が何やらしゃがみこんで唸っていた。
「どうしたの?」
「あ、白ちゃん」
黒が振り向く。
「これ動かなくって」
困ったように言い、黒は抱えていたものを掲げて見せた。
古びたCDラジカセ。
それは埃をかぶっていて、塗装も剥がれ落ち、薄汚れて黒ずんでいた。しかし明らかに壊れている様子はなく、まだ使えそうだった。
黒がボタンを押す。しかし、全く反応しない。
「ね?」
「そうねぇ」
白もCDラジカセのあちこちを見てみたが、特に壊れているところはなさそうだった。しかしそう見えるだけであって、古びているし、もう使えないのではないだろうか。
黒からそれを受け取り、またじーっと見てみる。やはりおかしなところはない。
裏も見てみる。
「あ」
「なになに?」
白はクスと微笑んでCDラジカセを置いた。黒は不思議そうにCDラジカセと白とを見やる。白は可笑しそうにクスクスと笑いながら、CDラジカセの電源コードを伸ばして見せた。
黒は最初不思議そうにしていたが、すぐに意味を理解して照れくさそうにした。
電源がなければ、いくらボタンを押したところで動くはずはない。
「これじゃあ動くはずないわね」
言い、プラグを持ってコンセントを捜す。しかし、どこにも見当たらない。
一旦プラグを置いて、あちらこちらへと視線を移す。
この店はそう広くはない。背伸びすれば店中が見渡せるが、それでもコンセントは見つからなかった。
白は少し残念そうに黒へと視線を戻した。
「ここにはコンセント無いみたいね」
「えー?」
黒も寂しそうにCDラジカセを見る。
「聴きたかったなぁ…」
「神様のお告げかもね。聴いてはいけませんって」
「そうかなぁ」
白はまた山の間を縫って出ていく。黒もすぐに後についていった。
山の間を抜ける途中、CDラジカセに振り向く。
ぽつんと置いてあるそれはどこか寂しげで、哀れにも見えた。
「ばいばい」
そう呟いて、白の待つ外へと出た。


寂しそうに鳴くCDラジカセの音色は、誰にも聞こえないまま。