―もしかしてそれは、君を誘ったのかもしれない。













あはは、と笑い声二つ。
二人の少年は楽しげに笑みを浮かべ、帰路を辿っていく。
空は青く突き抜け、見上げれば鴉の一匹が飛んでいた。
それは真黒な羽を一つ落として、太陽の光の下飛んでいく。
思わず目を閉じたくなるような眩しさを放つ太陽。明るく元気な人を太陽と譬えるのは、良く言ったものだと

思う。
少年の片方は髪を無造作に伸ばし、長くはないが耳が半分隠れるほど。身長は高くはなく、平均より若干だけ

低い程度だ。その体は男子にしては細く、筋肉もなく頼りなさそうだった。もう片方は眼鏡をかけており、髪

は短く切っている。しかし剃らない髭の所為で実年齢より老けて見え、さらに不潔な感じがする。
ただ性格は気さくで、案外話していて楽しい。
それはそうと、鴉はまたその体を翻して飛んでいく。
一体何処へ向かうのか。何故に何処へ飛ぼうと言うのか。
逝くあてなどはないのだろうが、では彼が空を飛ぶ理由はあるのだろうか。
そう問うと、彼女は笑って答えるのである。
そんなものは無い、と。
地に堕ちるのが、鳥の定めだと。
そんな彼女が微笑んで居た校舎を出、二人はまだ帰路を辿っている。


「じゃあ、俺がそっち行くわ」
眼鏡の少年が言う。
そっちに行くと言うのは、眼鏡の少年がもう片方の少年の家に遊びに行くと言うことだ。
「おけ。じゃあ鍵閉めとくわ」
「ひでぇ」
「鍵閉めるのは当然だろうが!」
そんな事を言って笑う。
「もう…なんで俺こんないじられるん?」
「そういうキャラなんじゃね」
と一蹴されて、眼鏡の少年は泣くようなポーズをとった。
手で覆った顔は、楽しそうに笑っているが。
「ほらすっげ楽しそう。この変態マゾめ!」
「違うし! 俺変態じゃないし! 変質者だし!」
「同じだろ!」


なんやかんやと二人の会話は続く。
冗談を冗談で返して突っ込んではボケて、なんとも二人にとっては楽しい会話だ。
ふと声が途切れ、沈黙があった。
しかしすぐに少年が言う。
「こういうの天使の通り道って言うんだっけ?」
「だっけ?」
「実際良く分からんけどな」
とあははと笑いながら、少年はポケットを漁った。
眼鏡の少年は特に気にも留めず、次の言葉を発そうとした。
が、届かなかった。


少年がどさりと倒れる。
その胸にはナイフが深く突き刺さっていた。
明らかに、自分で刺していた。
「は…?」
眼鏡の少年は立ち尽くすしかない。
少年はもうぴくりとも動かなかった。
すぐに近くに居た女性が悲鳴を上げ、人が寄ってくる。
眼鏡の少年は、ただ少年を見下ろすしかなかった。



急に自殺するなよ。
俺、どう反応すればいいんだよ?










少年の想いは、自分にすら解されることなく。