01始まり 「最上階の終止交響曲」

―終わりがあって、始まりがある。








何処かの屋上。
見上げるとそこには、灰色の穢い空があった。
生温い風がひとつ吹いて、少女の短い黒髪を揺らす。
少女は汚い空気で乾いた瞳に、ぎゅっと目を閉じた。しかし開けるとすぐ、汚い空と乾いた瞳が見えた。
下にはずっと灰色が広がって、たまに青や赤、黄色の点がぽつぽつと見える。
少女は肌をさらけ出したままの足で、コンクリートの端へと歩く。冷たいコンクリートの温度が伝わるが、少女の脳は感知しない。
真っ白なワンピースが、ふわりと浮いた。生温い風が、少女の青ざめた肌を舐めるように撫でる。
その舌触りは譬えようもなく不快で、しかし今の少女には丁度いいのかもしれない。
少女の指先が世界から少しだけ漏れた。
体が震える。無意識に恐怖する。
見下ろせば、穴のように深い世界がずっと広がっていた。赤が青に変わって、鉄の塊が動き出す。その塊は黒い煙を吐き出して加速し、列に連なって何処かを目指す。
大きな交差点では、小さな光が青になった途端に、沢山の命が虫のように蠢いた。吐き気すら催す。
目を瞑って見ても、それはずっと繰り返す。
ここから見たその様は、まるで地獄のように思えた。

少女は、歌い始めた。
くまの出来た目で、傷ついた肌で、乾いた唇で、冷めた心で。
何かの歌で言っていた。
始まりがあれば終わりもある。
なら私は、終わらせたい。終わらせてやりたい。
この腐った世界を。この汚い空気を。


私が死んで、私が死んだ世界が始まる。
もう一度見上げると、鳥が翔んでいた。

―逝こう。







少女が居た世界の、終わりが来る。